歌舞伎俳優の松本幸四郎が句集「仙翁花(せんのうか)」を、6月に三月書房から出版した。長く演じ続けて1000回を超す大記録を打ち立てた「勧進帳」と「ラ・マンチャの男」、6月の歌舞伎座での孫の初舞台など、役者生活の折々に詠んだ俳句が並ぶ。「これはほとんどが役者の労働句です」と幸四郎は話す。
《千年の佛(ほとけ)千回の花役者》
この巻頭の句には、「平成二十年十月 東大寺」とある。幸四郎は昨秋、念願だった奈良・東大寺の大仏殿前で「勧進帳」の武蔵坊弁慶を演じた。月明かりの中、5000人の観客を前にして、朗々と名せりふを読み上げた。
「役者は舞台の上で、五感のすべてを使っている。そこから素(す)に戻ったときには、五七五くらいがちょうどいい。いつもは言葉の洪水の中に生きて、アップアップしていますから」と言う。
《真実も事実も溶ける大暑かな》
これは平成17年、名古屋・名鉄劇場で「ラ・マンチャの男」を上演したころの句。身の回りにある事件が起き、「自分の立場がつらい時期だった」という。そんなとき、芝居の中のドン・キホーテのせりふが頭に浮かび、それを取り入れて作った思い出の一句だ。
《雪の日や雪のせりふを口ずさむ》
これは幸四郎本人の句ではない。母方の祖父に当たる初代中村吉右衛門は高浜虚子門下で、代表作がこの句である。幸四郎は、この句の奥深さ、意味をかみしめたときが過去にあったという。
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